報恩社トップ

章間 夏

第14章 / もくじ / 第15章

太郎は茶屋の左手彼方の海を見遣った。濃い青の色に染められた海は、水平線のほうに向かうにつれて、やや白味を帯びている。水平線があると思われる遥か彼方は、黒ずんだ雲で蔽われている。そのやや少し上で、雲はいくつかの大きな塊となって天に向かっている。高く南中した太陽に照り返された海から立ち上がった水蒸気が、林立する入道雲となり雄雄しく聳えている。その雲の上の部分は、強い夏の太陽の光によって白く照らされている。
 太郎は左の奥の海から右に視線を少し移した。そこは海岸線となっている。海岸からすぐ立ち上がる山は、濃い緑に蔽われていた。その稜線は幾重にも重なって、太郎の左から右にかけてその視野いっぱいを占めている。
 太郎の目にはその稜線の間を、縦に層状になった雲が、つぎつぎと海の側から山の奥にかけて動いているのが映っている。
 それぞれの雲は山肌に沿いながら淡く浮かび、そしてすぐまたその先では濃くなっていく。変幻する雲は絶えることなく、海のほうより山のほうへ流れて行く。淡く連なりながら雲が流れて行く様は、幽玄そのものだった。海から山にかけて吹き上がる風は、この陽射しの強さの中で流れを止めることはなかった。消えては現れ、現れては消える雲の合間から、沁みるように見える濃い緑が鮮やかだ。その所々にやや薄い緑が見えるが、あれは竹林だろう。その薄い緑の一帯は、海風を受けて波打っているように見える。太郎は飽きもせず雲の流れ行く様と緑の広がりを見ていた。
 太郎と二郎の座っている茶屋の縁台にも、海のほうから谷を伝わって来た風が強く吹き上げている。夏の熾烈な太陽が射しているというのに、この茶屋の庭は涼やかだった。大きく開いた日傘が陰を作ってくれているせいかもしれない。
 太郎は手に持った備前焼の茶碗の中に目を移した。そこにも濃淡のある緑が広がっている。みずからの信仰も生涯を通し、このお茶のように常緑でありたいと思った。