東村山警察署は十二月二十二日、東村山市の女性市議・朝木明代の転落死は自殺によるものであると断定し、公式発表した。朝木は、去る九月一日午後十時ごろ、西武線東村山駅近くの六階建てビルより飛び降り自殺をし、担ぎ込まれた病院で翌二日午前一時ごろに死亡した。
この朝木が自殺をした動機の一つとして、朝木当人が犯した万引き事件が警察関係者により指摘されている。この万引き事件は、本年六月十九日午後三時ごろ、東村山駅前の洋品店「スティル」で起きた。この事件の顛末についてはあとで詳述するが、朝木は自殺したころ、近々、検察当局の調べが予定されていたのである。
ところでこの万引き事件について、生前の朝木明代や夫・大統、長女・直子、朝木と反創価学会活動をおこなってきた矢野穂積は、創価学会の謀略であると言い張ってきた。なお、矢野は四月の統一地方選挙において次点であったが、四位当選した長女の朝木直子が当選辞退したため、繰り上げ当選して同市市議となった人物。
この事件について、正信会機関紙『継命』の元編集長である乙骨正生は、『文藝春秋』(平成七年十一月号)に掲載された「東村山市議怪死のミステリー “自殺”に固執する警察捜査にこれだけの疑問―」と題する原稿のなかでつぎのように書いている。
「警察は、六月三十日になって朝木さんに出頭を要請。簡単な事情聴取を三回行なった後、七月十二日になって、東京地検八王子支部に書類送検したのだった。
これに対し、朝木さんは、『まったくのデッチあげ。事件の時間には、別の場所にいたというアリバイがある』と主張。八月二日には洋品店主T・Sさんを、名誉毀損で東京地検八王子支部に告訴している。
『朝木さんには完璧なアリバイがあります。犯行時の午後三時頃は、私と府中街道沿いの〈びっくりドンキー〉というレストランで食事を取っていました』(矢野氏)
万引事件発覚後、『草の根』の事務所には、創価学会員を名乗る人物からの『組織ぐるみの謀略』であるとの電話や、『万引事件には〈替え玉〉を使っている。それを調べること』と記された投書も寄せられている」(『文藝春秋』平成七年十一月号)
乙骨は、その後につづく文においても、あたかも万引き事件それ自体が不可解なもののごとく筆を進め、
「仮に起訴されたとしても、朝木さんは、とことん戦うつもりでいました。悲観して自殺するなんて考えられません」(同)
との矢野のコメントを紹介し、万引き事件も朝木にかけられた濡れ衣なら、死因も自殺でなく他殺であるかのように読者に印象づけようとしている。
だがこの乙骨は、反創価学会記事を専門に書いているようなライターである。つぎに紹介する『週刊新潮』(平成七年八月十七日・二十四日夏季特大号)に掲載された「名物『東村山女性市議』 万引き事件のミステリー」と題する記事についても、当然に目を通しているはずだ。
万々が一にも乙骨がその『週刊新潮』の記事を読んでいなくても、東村山市に行き朝木の死因について取材しているのだから、この朝木の死に密接な関係ありとする万引き事件にからみ駅前の洋品店経営者から取材すべきで、それをせず記事を書きあげてしまうことは面妖の一語に尽きる。
乙骨の記事に件の洋品店経営者のコメントが掲載されていないのは、果たして取材しなかったとみるべきか、あるいは取材したが利用価値なしとしてわざと紹介しなかったとみるべきであろうか。いずれにしても、そこに乙骨の文を書くうえでの作為を確認せざるを得ない。
少し前置きが長くなったが、『週刊新潮』の記事を引用しよう。
「ともあれ、騒動の経緯を振り返ると――件の万引き事件は、六月十九日の午後三時ごろ、西武新宿線の東村山駅前にある洋品店『スティル』で起きている。
経営者の妻が店番をしていたところ、一人の中年女性が店の外に吊してあったセール商品の前を通りかかり、キュロットとセットになった千九百円相当のTシャツをハンガーから外し、脇に抱えるようにして持ち去った。で、防犯ミラーでその現場を目撃した経営者の妻は、ただちに中年女性を追跡。店から十bほど離れた路上で彼女を捕まえた」(『週刊新潮』平成七年八月十七日・二十四日夏季特大号)
以上の文につづき『週刊新潮』は、万引きした朝木を捕まえた「経営者の妻」の話を紹介している。
「相手が市議の朝木さんだということは、もう鏡で見ていた時から分っていました。選挙のポスターでも顔は知っていましたし、彼女は子供の小学校の入学式の来賓で来たこともあります。普段もよく店の前を通るのを直接見ていたし、実際に以前、ウチで買物をしたこともありましたからね。ですから、絶対に間違うはずはないんです」(同)
このように「経営者の妻」は「断言」したということである。この洋品店「スティル」は、朝木の「草の根」事務所から約三百メートル程度しか離れていない。「経営者の妻」が言うように「普段」から朝木の顔を見知っていたのは間違いないと思われる。『週刊新潮』は、朝木を捕まえたあとの状況を説明する「経営者の妻」の話もつづけて紹介している。
「それで、私は彼女の前に回り込んで、“万引きしたでしょう、出しなさいよ”と言ったんですけど、彼女は認めようとしない。ところが、両手を上げさせたら、背中の方にバサッと商品が落ちたのね。それでも、彼女はしらばっくれて……。最後はジリジリ後ろに下ったまま、逃げだしてしまったんです。私も少しは追いかけたけど、なんだか怖くなってね。すぐ近くの交番に被害届を出したんです」(同)
これほどはっきりした証言があろうか。しかも、
「この場面は複数の人たちにも目撃されている」(同)
というのであるから、なにをか言わんやである。
この洋品店の「経営者の妻」の証言に比べれば、乙骨が記事において紹介している朝木と事件の起きた時刻の前後ずっと一緒にいたとする矢野の“アリバイ証言”や、創価学会員を名乗る者が「組織ぐるみの謀略」とタレ込み電話を入れてきたとか、万引き犯人は「替え玉」であるとの「投書」があったとかの朝木側の言い分のなんと虚ろなことよ。
そもそも朝木に似た者を「替え玉」にして万引きをさせ、朝木に濡れ衣を着せようなどという謀略が成立するはずがない。
その計画目的を完結させるためには、その朝木の「替え玉」は、必ず万引きしたところを店の者に見つかり、かつ犯人は朝木だとしっかり思わせたうえで首尾よく逃亡しなければならないのである。これが成功する確率は何パーセントであろうか。
この朝木らの「替え玉」説に反論する根拠は、先に引用した『週刊新潮』に掲載された「経営者の妻」の証言などを元にすればいくらでも指摘できるが、馬鹿バカしいのでここでは省く。
万引き犯人・朝木らの主張は、あまりに幼児的である。では、矢野の「アリバイ証言」はどう評価するのか。矢野は、長女・直子に市議会議員の地位すら譲ってもらった仲、その矢野の“アリバイ証言”を警察がまともに聞くはずがあるまい。
東村山署は朝木から事情聴取をおこなったあと、七月十二日に東京地方検察庁八王子支部に書類送検している。当然のことながら、朝木は警察の事情聴取において矢野と一緒にいたと主張したことだろう。だが、それでも警察は書類送検したのだ。「アリバイ証言」を崩す証拠を入手していたとみるのが妥当である。
乙骨正生は『文藝春秋』に「ジャーナリスト」の肩書で文を書いているが、この程度の取材、この程度の判断力もないのであろうか。この記事を掲載した『文藝春秋』編集部も同断である。
もう少し『週刊新潮』の記事を引用しておこう。「名物『東村山女性市議』 万引き事件のミステリー」の記事には、
「名誉棄損で訴えられた洋品店では店主がウンザリ顔でこう言った」(同)
として、つぎのようなコメントが出ている。
「あちらは、ウチにも学会関係者がいるといってるようだけど、妻は真言宗だし、私は浄土真宗大谷派で学会ではありません。以前、パートで学会員の女性がいたことは事実ですが、その人はもう二年も前に辞めている。事件の後に公明が協力するからと声をかけてきましたが、それも断わったぐらいです。とにかくウチは万引きされたから届け出たという当り前のことをしただけ。それに朝木さんを見間違えるはずはないですよ。前にもあの人が店に来た後、商品が無くなったことがあったんです。こっちは、またやるかな、と思って初めから注意して見てたんだからね」(同)
この洋品店店主夫妻の証言でもう充分ではないか。この取材が、ことあるにつけ創価学会への誹謗中傷記事を掲載する『週刊新潮』編集部によって事件後まもなくおこなわれていたことに無上の価値がある。乙骨などが、『文藝春秋』誌上に粗忽な文を書き創価学会への疑惑をデッチ上げる余地など元よりないのである。
そう思わないか乙骨クン。
(文中敬称略)
