第6章 両 舌 破 法


 第244号  1991年9月1日

日蓮正宗自由通信同盟

日柱上人は「陰謀」と「強迫」によって退座を余儀なくされた
従って誰が後任の管長に選ばれても相承しないと宣言した
 〈法難シリーズ・第22回〉

 日蓮正宗の管長をめぐる紛争を、話し合いによって解決できないと判断した文部省宗教局は、選挙によって管長候補者を選出することを決定した。その決定は、全国檀徒大会がおこなわれた一月六日に日蓮正宗側に伝えられたようだ。そこで、規則に従い、管長候補者選挙が告示された。
 投票は郵送あるいは本人持参をもっておこなわれ、二月十六日が投票締切。二月十七日、大石寺宗務院において開票されることとなった。被選挙権者の資格は権僧正以上であった。ただし阿部法運は、僧階降格一年未満であったため除外された。
 その結果、当時の宗内で被選挙権を有する者は、日柱上人、有元廣賀(品川・妙光寺住職)、堀慈琳(のちの日亨上人、浄蓮坊)、水谷秀道(のちの日隆上人、本廣寺)の四名となった。一方、選挙権を有している者は八十余名いた。
 日柱上人は選挙を有利にするため、一月二十五日、『宣言』を発表した。その内容の骨子は、「選挙に於て、日柱以外の何人が当選されたとしても、日柱は其人に対し、唯授一人の相承を相伝することが絶対に出来得べきものでない事を茲に宣言する」というものであった。選挙で自分に投票しなければ、血脈が断絶することになるぞと威嚇したのである。
 なお『宣言』全文は以下のとおり。
「 宣 言
一、日柱の管長辞職は、裏に評議員宗会議員並に役僧等の陰謀と、其強迫によつて余儀なくせられたるものであれば元より日柱が真意より出たものでない。かゝる不合理極まる経路に依て今回の選挙が行はれる事になった。
 斯の如き不合理極まる辞職が原因となりて行はれる選挙に於て、日柱以外の何人が当選されたとしても、日柱は其人に対し、唯授一人の相承を相伝することが絶対に出来得べきものでない事を茲に宣言する。
二、抑も唯授一人の相承は、唯我與我の境界であれば、妄りに他の忖度すべきものでない。故に其授受も亦た日柱が其法器なりと見込みたる人でなければならぬ。聞くが如くんば、日柱が唯授一人の相承を紹継せるに対し、兎角の蜚語毒言を放つ者ありと。これ蓋し為にせんとての謀計なるべきも、斯の如き者は、師虫の族である。相承正統の紹継者は、日柱に在り。日柱を除いて他にこれなき事を断言する。既に不合理の経路に依て行はるゝ、今回の選挙であれば、これに依て他の何人が当選するとも唯我與我の主意に反するを以て、相承相伝は出来ないのである。乃ち仏敕を重んずる精神に基く故である。斯の如く日柱が相承を護持する所以は、謗徒の為に、宗体の尊厳を冒涜せられ、仏法の血脈を断絶せらるゝ事を恐るゝゆへである。而かも米国の民主主義や、露国の無政府共産主義の如き事が、我宗門に行はれることになり、それが延ては終に日本国体に及ぼす禍根となるを悲む所以である。
三、日柱は宗体を顛覆せらるゝ事を痛嘆する者である。既にこれを憂慮せる清浄の信徒は、奮起して正義を唱へ、相承紹継の正統を、正統の正位に復すべく熱誠活動して居るのである。荀くも僧侶として信念茲に及ばざる如きあらば真に悲むべきである。即ち仏法の興廃は今回の選挙によつて定まるのである。願くば選挙に際し其の向背を誤らざんことを。
 仏日を本然の大光明に輝かさんと願はん純正の僧侶並に信徒は、敢然として三宝擁護に奉ずるために、正路に精進し、倶に共に宗体を援助するに勇猛なれ。
 南無妙法蓮華経
 大正十五年一月廿五日
            総本山五十八嗣法日柱 花押」
 意に反して猊座を追われた日柱上人の無念がひしひしと伝わってくる。日柱上人に退座すべき理由はなにもなかった。阿部法運(のちの日開上人、現日顕上人の父)の僧階を降格したばかりに、恨みを買い、クーデターを画策され、退座を余儀なくされたのだ。それも「陰謀」「強迫」によってなされたというのだから、穏やかではない。
 さて、日柱上人を擁立する檀信徒の集まりである正法擁護会代表八名は、日亨上人に対して日柱上人の支援にまわってくれるよう懇請するため、大石寺の浄蓮坊を訪ねた。一月二十九日のことである。この日亨上人との会見には、大石寺の地元の檀家総代一名が同席した。
 日亨上人と一同の会見は、一月二十九日から三十日にかけて数度おこなわれたが、日亨上人が懇請をキッパリと退けたことにより、正法擁護会の工作は失敗した。
 一月三十日、正法擁護会は大宮町(富士宮市)の旅館・橋本館に引き揚げ、夜遅くまで善後策を協議した。日亨上人の説得に失敗した今、日柱上人の敗北はほぼ確定的である。そこで、正法擁護会の代表八名は、残された非常手段に訴えることにした。
 明けて一月三十一日午後一時、一行は大宮警察署を訪ね、疋田警部補に面会。午後二時七分、大宮駅発の列車で帰京した。正法擁護会の代表たちは、前年十一月の日蓮正宗宗会における不信任決議の不当性を訴え、日柱上人に対する脅迫事件の捜査を、疋田警部補に要請したようだ。(筆者注 時期の特定はできないが、日柱上人側が告訴していたことが後に判明する。これが後に日蓮正宗への警察の介入を招く)
 こうして、管長候補者の選挙がおこなわれたが、開票前日の『静岡民友新聞』(大正十五年二月十六日付)は、次のように報じている。
 「屡報宗門の恥を天下にさらし、宗祖以来七百の誇り、血脈相承も棄てゝ管長選挙に僧侶と檀信徒が対立して醜争をつづけている日蓮正宗大本山富士郡上野村、大石寺の管長選挙も今十六日を以て投票を終り明十七日開票の筈だが、開票の結果は、檀信徒派擁立の土屋前管長の当選は到底覚束なく、僧侶派擁立の現管長事務扱、堀慈琳師の当選は疑ふ余地なき確実なものと観測されている。所轄大宮署では開票当日の大混乱を予測して官、私服の警官十余名特派し警戒に努める模様だ」
 日蓮正宗の管長候補選挙の開票に警察官十余名が動員されることが報じられている。この新聞記事は、日蓮正宗内の対立がいかにひどいものであったかを示している。
 そして、いよいよ開票日当日を迎える。
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